楽しく毎日を過ごせたら




次の日は出張で6時半起きだったけど,
話があるからという事で1時半に電話をかけました。

2ヶ月ぶりの電話。
話があるという深刻そうなメールの口調。
不安に押し潰されそうで通話ボタンがなかなか押せませんでした。


けど,スピーカー越しの彼女の声は意外なくらい明るかったんです。
こっちが次に何を話そうとしたのか忘れるくらいに。
でも,その明るい声は何か,開き直ったかのような力も感じました。

挨拶の次に何を話したのかよく覚えてないけど,少し雑談をして,
すぐに彼女は本題を切り出しました。


 「私の自意識過剰じゃなければ,庭さんは私の事を気に入ってくれてますよね?
  けど,少なくとも今は庭さんの事何も思ってないんです。
  私がそういう気持ちなのに,連絡取り合うのって辛くないですか?
  期待持たせないように私からの連絡は断った方が良いですか?
  どうしたらいいか決めて下さい。」


あまりの事で何も言う事が出来ませんでした。
自分で言う事じゃないけど,頭の回転は悪い方ではないのですが,
彼女の言葉の意味,自分に突きつけられた質問は理解出来ても
この状況を好転させる回答を捻り出す事は出来ませんでした。
しばらくの沈黙の後,彼女はこれまでにあった事を話し始めました。



免許は取れたけど,数回遠出しただけでペーパードライバーになりつつある事。
お父さんが退院出来て,自宅療養中だという事。
今はテスト中で,すぐに就職活動が始まる事。
そして,彼氏と本気で別れた事。

彼氏とは7月後半に別れたらしいのですが,
別れを決意したのは彼氏が暴力を振るいだしたからと聞かされました。
彼女はあまり話したがらないだろうと思い,詳しくは聞きませんでしたが,
結構トラウマになってる,と言いました。
無理にだと思うけど,それすらも笑って言ってたのがやけに辛かったです。
言葉では適切に表現出来ない気持ちが鬱積して息苦しかったです。

けど続けて,今は毎日を楽しく過ごす事に意識を向けてる,と言いました。
そう思えるようになったのは相談相手のバイト先のママさんの言葉が大きかったそうです。


 「私は人から見て決して良い人生を歩んでるとは言えないけど,
  今とても幸せよ。」


その言葉にどれだけ救われたのか想像つかないけど,
楽しく,幸せに生きようと彼女が思えたのが嬉しかったです。


そして最初の質問の回答。
今まで読んだ本,観た映画・ドラマ,人から聞いた話,
全てを総動員して状況を好転させようと,一発逆転を狙おうとしたけど,
そんな言葉を並べた所で無駄な事はすぐに分かりました。


 「君が毎日を楽しく過ごそうとしてるから重荷にはなりたくない。
  けど,連絡を断つのもイヤ。
  2つに1つみたいな選択を迫られてもすぐに答えは出せないから,
  とりあえずは無理しない程度に近況報告とかで楽しく話したい。」


どっちつかずの回答だけど,こういうので精一杯でした。

その後も少し話をして,免許取得・お父さんの回復祈願の為に渡していたお守りを
目的が果たされたので返したいという事になりました。
郵送になるのか,直接手渡しで返されるのかは分からないけど,
いつでも良いので時間の出来た時にでも連絡して,という事で落ち着きました。


今,何か積極的に行動する事は無いけど,妙に心境は穏やかです。
さすがに電話を切って数日は会話を思い出してアレコレと考えてたけど,
今は彼女が楽しく過ごせてたらイイな,とか
期待はしないけど,希望は捨てない,とか考えてます。
もしかしたら何か素敵なびっくりサプライズもあるかもしれないし,
当面は仕事に,遊びに,ジムに,読書に。
俺も楽しく毎日を過ごせたらイイな,なんて思ってます。